生活改善から治療まで、詳しい対策をご紹介
「電車に乗るとき、必ずトイレの近い車両を選んでしまう…」 「夜中に何度もトイレに起きて、熟睡できない…」 「急な尿意に我慢できず、困っている…」
このような悩みを抱えていませんか?実は、これらの症状に悩む方は決して少なくありません。日本での大規模調査によると、40歳以上の約13.8%が同様の症状を抱えているとされています(日本排尿機能学会, 2024)。
今回は、このようなつらい頻尿の原因の1つである「過活動膀胱」について、症状や原因、そして実践できる対策までくわしくご説明します。
頻尿って、どんな症状?
頻尿とは、文字通り「おしっこの回数が多い」状態を指します。ただし、単に回数が多いだけでなく、「我慢が難しい」「突然尿意を感じる」といった症状を伴うことも少なくありません。
正常な排尿回数との比較
一般的に、1日の排尿回数は以下が目安とされています。
- 昼間:4-8回程度
- 夜間:0-1回程度
これに対して、以下のような状態が続く場合は、頻尿の可能性があります。
- 昼間の排尿回数が8回より多い
- 夜間に2回以上トイレに行く
- 2時間おきなど、短い間隔で尿意を感じる
- これらの症状によって困っている
頻尿が生活に与える影響
頻尿は単なる不快な症状ではありません。以下のような影響により、生活の質(QOL)を大きく低下させる可能性があります。
- 睡眠の質の低下
- 外出時の不安
- 仕事や趣味活動への支障
- 人間関係への影響
頻尿による睡眠の質の低下は、日中の集中力低下や疲労感の増加につながることが報告されています(Choi EPH, et al., 2019)。
過活動膀胱(かかつどうぼうこう)とは?
頻尿の原因の1つに「過活動膀胱」があります。過活動膀胱は、以下のような特徴的な症状を示す状態です。
- 突然強い尿意を感じる
- 尿意を我慢するのが難しい
- トイレの回数が増える
- 夜間にも何度もトイレに行く
日本排尿機能学会のガイドラインによると、過活動膀胱は「尿意切迫感があり、それを我慢するのが難しい状態」と定義されています。尿意切迫感とは、「突然起こる我慢できないような強い尿意であり、通常の尿意との相違の説明が困難なもの」です。必ずしも尿失禁(尿漏れ)を伴うわけではありませんが、症状が進行すると尿漏れを伴うこともあります。
年齢ととに増加する傾向(一般的に)
男性<女性
危険因子(リスク因子):肥満、排尿症状*、うつ症状
幅広く生活の質(QOL)に悪影響をおよぼす
*排尿症状:おしっこ(尿)を出すことに問題がある状態で、「尿が出にくい」「尿の勢いが弱い」「お腹に力をいれて尿を出す」といった症状です 。
なぜ過活動膀胱になる?
過活動膀胱の発症メカニズムは解明されていませんが、大きく、神経の病気によるものと(神経因性)、それ以外(非神経因性)に分けられます。過活動膀胱にかかっている人全体でみると、原因が定められない人が大半を占めています。
- 神経が原因(神経因性)のメカニズム
脳の問題:神経の伝達情報が上手くいなない
・脳の病気(脳血管障害、パーキンソン病、多系統萎縮症、正常圧水頭症など)
・脊髄の病気(脊髄損傷、多発性硬化症、椎間板ヘルニアなど)
・末梢神経の病気(腰部脊柱管狭窄症、糖尿病性抹消神経障害など)
- 神経以外が原因のメカニズム
生活習慣の乱れ、高血圧→酸化ストレス→血管の機能障害、自律神経の問題、炎症→過活動膀胱
小腸や大腸の機能障害が関わっている可能性
女性特有)女性ホルモン低下(エストロゲン)→虚血、酸化ストレス反応→過活動膀胱
男性特有)膀胱出口部閉塞(原因:前立腺肥大症、尿道炎、尿道結石症など)、男性ホルモン(テストステロン)低下→過活動膀胱
頻尿・過活動膀胱の主な原因
症状の背景には、様々な要因が関係している可能性があります。
1. 加齢による影響
- 膀胱の筋肉の弾力性低下
- 神経伝達機能の変化
- 夜間の尿量増加
2. 生活習慣との関連
研究により、以下の生活習慣との関連が指摘されています(過活動膀胱診療ガイドライン)
- 肥満
- 運動不足
- 喫煙
- 食事
- 飲水量、炭酸飲料摂取
- 過度の飲酒やカフェイン摂取
- 便秘
特に、食事と運動を組み合わて行う「体重減少」はエビデンス(科学的根拠)がしっかりと示されています。
3. その他の要因
- ストレス
- 睡眠の質の低下
- 骨盤底筋の衰え
- 他の病気の影響
セルフチェックのポイント
ご自身の症状が過活動膀胱かどうか、以下のポイントでチェックしてみましょう。
□ 突然、強い尿意を感じることが週1回以上ある
□ トイレに行きたくなったら、我慢が難しい
□ 昼間のトイレ回数が8回以上
□ 夜間に2回以上トイレに行く
□ トイレの場所を気にして行動を制限している
3つ以上当てはまる場合は、過活動膀胱の可能性があります。早めに対策を取っていきましょう。
排尿日誌をつけてみよう
より正確な状況把握のために、1週間程度の排尿日誌をつけることをお勧めします。
- トイレに行った時間
- おしっこ(尿)の量(多い・普通・少ない)
- 水分摂取量と時間
- 急な尿意の有無
実践できる対策
症状改善のために推奨されている対策をご紹介します。
1. 生活習慣の改善
- 飲水管理
- 1日の適正な水分摂取量は体重×30ml程度
- 就寝2~3時間前からの水分制限
- カフェイン・アルコールの適度な制限
- のどが渇いていなくても、定期的な水分補給を心がける
- 朝・昼を中心とした水分摂取を意識する
- 食事の改善
- 適度な塩分制限(1日7g以下を目安に)
- 刺激物(唐辛子、わさび等)を控えめに
- 食物繊維を十分に摂取し、便秘を予防
- バランスの良い食事を心がける
- 夕食は就寝3時間前までに済ませる
- 運動習慣
- ウォーキング
- 1日30分程度を目安に
- かかとから着地を意識した正しい歩き方
- 大股歩き
- 自分のペースで継続することが重要
- 可能であれば1日2回に分けて実施
- 軽い筋トレ
- スクワット(膝に負担のない範囲で)
- かかと上げ運動
- 骨盤まわりのストレッチ
- 腹筋運動(負担の少ないもの)
- その他の運動
- ヨガや太極拳などのゆっくりとした運動
- 水中ウォーキング
- ストレッチポール等を使用したエクササイズ
2. 骨盤底筋トレーニングの具体的な方法
- 基本の骨盤底筋トレーニング
- 椅子に座る/仰向けに寝る/いい姿勢で立つ
- おしっこを我慢するように5秒間軽く力を入れる
- 5秒間リラックス(力を緩める)
- これを10回程度繰り返す
- 1日3セット程度を目安に行いましょう
- 応用編
- 呼吸と合わせて行う
- 息を吐きながら力を入れる
- 息を吸いながら力を緩める
- 歩きながらの意識的に力を入れる/緩める
- 家事をしながらの力を入れる/緩める
- 呼吸と合わせて行う
日常生活での工夫
- 外出時の対策
- トイレマップアプリの活用
- 吸水性の良い下着の使用
- 長時間の外出時は水分摂取を調整
- 予備の下着を持参
- トイレ休憩を考慮した行動計画
- 人混みを避けた移動ルートの選択
- 仕事中の対策
- デスクワーク時は1~2時間おきに立ち上がる
- トイレに近い席への配慮を依頼
- 会議前にトイレに行く習慣づけ
- 水分摂取のタイミングを記録・管理
- ストレス解消法の確立(深呼吸、ストレッチなど)
- 夜間の対策
- 就寝前2~3時間は水分を控えめに
- 足を少し高くして寝る
- 就寝前の軽いストレッチ
- 快適な室温・湿度の管理(18~23度、湿度50~60%)
- 上げ下ろししやすいパジャマ
- 季節別の注意点
- 夏場
- こまめな水分補給と排尿
- 冷たい飲み物の摂取を控えめに
- 適度な室温管理(エアコンの使用)
- 発汗を考慮した水分補給
- 冬場
- 急な温度変化を避ける
- 入浴時間の調整
- 暖かい服装の工夫
- トイレ室の保温対策
4. 心理面のケア
過活動膀胱の症状は心理的なストレスとも関連があることが報告されています。以下のような取り組みも効果的です。
- リラックス法の実践(呼吸法、瞑想など)
- 十分な睡眠時間の確保
- 趣味や運動による気分転換
- 家族や友人との交流
- 必要に応じて専門家への相談
最後に
頻尿や過活動膀胱の症状は、適切な対策により改善が期待できます。今回ご紹介した方法を、ご自身の生活に無理なく取り入れてみてください。
ただし、以下のような場合は、医療機関への相談をお勧めします。
- 症状が急に悪化した
- 生活に支障をきたしている
- セルフケアで改善が見られない
- 痛みや違和感を伴う
焦らず、ご自身のペースで対策を続けることが大切です。よりよい毎日のために、できることから始めていきましょう。
文/大西安季(理学療法士/スポーツ医学博士)
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